■『アウトブリード』(河出文庫)
■『小説修業』小島信夫、保坂和志(中公文庫)
■『書きあぐねている人のための小説入門』(中公文庫)
■『小説の自由』(中公文庫)
■『小説の誕生』(中公文庫)
■『小説、世界の奏でる音楽』(中公文庫)
■『遠い触覚』(河出書房新社)
■『試行錯誤に漂う』(みすず書房)
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この本は「小説・文章の書き方How To本」では全くない。著者の文学と小説、文章、物語、仕事や才能に対する考え方や姿勢、自身の学生の頃からの体験や具体的な仕事のプロセスと生活の送り方、それらをただ語ることから読者を小説を書くことへ誘う。また、同時に村上さんのラフな人生論・幸福論でもある。
小説なら、文章が書けて(たいていの日本人には書けるでしょう)、ボールペンとノートが手元にあれば、そしてそれなりの作話能力があれば、専門的な訓練なんて受けてなくても、とりあえずは書けてしまいます。(中略)大学の文学部に通う必要もありません。小説を書くための専門知識なんて、まああってないようなものですから。(p.16)
僕はおおむねのところ、自分が「気持ちよくなる」ことだけを意識して小説を書きました。自分の中に存在するいくつかのイメージを、自分にぴったりくる、腑に落ちる言葉を使って、そのような言葉をうまく組み合わせて文章のかたちにしていこう……頭にあるのはただそれだけです。(p.267)
『職業としての小説家』と「騎士団長殺し」の内容を踏まえた村上春樹さんと川上未映子さんによる主に小説、物語、言論などについての対談集。
ただ、何かと戦わなくちゃいけないということは、もちろん僕にもよくわかっているんです。人は戦わなくては生きてはいけない。そうしないと誰かに利用されるだけで終わってしまいかねない。でもこの巨大な情報社会で、僕が個人的にどれだけ戦おうと決意しても、ただ消費されるだけで終わってしまうんじゃないかという思いはある。そういう諦観みたいなものは、小説を書いてるときにもひしひしと感じないわけにはいかない。(p.86 – 87)
「小説を書く方法」なんて無い、小説なんて好きに書けばいい、私はあなたと世界の「未来」が凝縮されたものが読みたい、ということから出発し、「小説とは何か」をじっくり捉え、それと夢中になって遊び、ことばそのものの楽しさを知ることがあなたに小説を書かせることになる、とする”非実践的”な小説論。多くの引用や例によって小説を知ることが大切だと著者は述べるが、それは「過去の小宇宙」でしかなく、あなた自身の言葉と思考に基づいた「未来の大宇宙」「未来の小説」を創造することが大切だとする。
あなたは、小説を書こうと、小説を習おうと、この教室にやって来たのに、小説からどんどん離れていくような気がしています。
でも、仕方ない。あなたは、小説を書くためには、いらない知識をたくさん持ちすぎている。あなたが最初にやらなければならいののは、知識をぜんぶ、いったん、忘れてしまうことです。なぜなら、あなたは、感受性をとぎすまし、こうやって、暗闇の中で目を見開き、沈黙の中で耳をすまさなければ、小説をつかまえることができないからです。(p.54 – 55)
小説家・評論家の高橋源一郎氏と翻訳家・文学研究者・大学教授の柴田元幸氏による小説を書くこと、翻訳すること、読むことをキーにした文学談義。
高橋 小説で書くことがない、というのは作家が言わない本当のことの一つ、というか、もっとも大きな一つです。(中略)本当のことを言うのが文学だというのは、実はまったくの嘘なんですね。(p.54)
この本も「小説の書き方」をほとんど教えてはくれない。生活や実存に関連して保坂さんの小説やストーリー、創作についての考え方を述べることで読者を小説を書くことへ導く。
それは、小説とは、”個”が立ち上がるものだということだ。べつな言い方をすれば、社会化されている人間のなかにある「社会化されていない部分」をいかに言語化するかということで、その社会化されていない部分は、普段の生活ではマイナスになったり、他人から怪訝な顔をされたりするもののことだけれど、小説には絶対に欠かせない。(p.16)