ブラック・ミュージックのジャンルとスタイル

ゴスペル(ブラック・ゴスペル)

ゴスペルとは黒人教会で歌われる賛美歌である。一般的に、ポピュラー音楽では「ゴスペル」という語はブラック・ゴスペルを表す。プロテスタント教会で歌われる賛美歌は「ホワイト・ゴズペル」あるいは「コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック」と呼ばれる。

ブルース

ブルースの基本形は3コードの循環による12小節によって構成される。ブルースは全米で発展しR&Bやロックンロールの進化の源流となった。

ジャズ

ジャズは、ヨーロッパのクラシック音楽とアフリカ系アメリカ人の土着の音楽の融合によって生まれた音楽ジャンルである。バンドは主にブラス・セクションで構成され、即興でのパフォーマンスが特徴になっている。ジャズの発祥の地はニューオーリンズであり、それが全体の米国に広がると、高度で洗練された様々なスタイルに進化を遂げた。

R&B(リズム・アンド・ブルース)

R&Bという言葉は、1940年代後半から1950年代のポピュラーな黒人音楽を意味する。それはジャンプ・ブルースの強烈なビートとブルース・スタイルのヴォーカルのシャウトの興奮を継承し発展させた。 R&Bは、ボーカルグループからソロ歌手まで様々なスタイルを持っていた。このジャンルはロックンロールの要素の一つとなり、と60年代により洗練されたソウル・ミュージックに進化した。
しかし、今日では「R&B」という言葉は、言い換えれば、ヒップホップあるいはラップではないポピュラーな黒人ヴォーカル音楽の総称となっている。

ドゥー・ワップ

ドゥー・ワップはR&のひとつのサブジャンルでありコーラスのスタイルである。それはメイン・ヴォーカルと「シャラララ」「ドゥー・ワップワップ」や「ボンボンボン」といった擬音的なバック・コーラス(高音・中音・低音パート)によって構成された。

ロック・アンド・ロール(ロックンロール)

ロックンロールはジャンプ・ブルース、ビッグバンド・ジャズやカントリー・ミュージックが融合した音楽です。その名前のルーツは黒人の間で話されていた「セックス」のスラングで、白人のDJアラン・フリードによってロックンロールと命名されていた。

ロックンロールの起源の言葉はワイルド・ビル・ムーアによる「ウィアー・ゴナ・ロック、ウィアー・ゴナ・ロール」まで遡ることができる。そして、最初のロック・ヒットはジャッキー・ブレンストンによる「ロケット88」とされている。 「ロケット88」はのジミー·リギンズ・アンド・ヒズ・ハヒードリッパーズによるジャンプ・ブルース・ソング「キャデラック・ブギー」をベースにしている。このヘヴィなジャンプ・ブルース・サウンドがもなければ、ファッツ·ドミノは彼の音楽をつくることができていないだろう。リトル・リチャードは、ロイ・ブラウンとビリー・ライトのジャンプ・シャウターのスタイルの模倣から始めた。

ルイ・ジョーダンは、ジャンプ・ブルース・ビッグバンドのスタイルを小さなコンボスタイルに変えた。これは、チャック・ベリーに大きな影響を与えた。そして、ベリーはディープなジョーダンの歌詞と歌のスタイルの影響を受けていた。ジョーダンのように、ベリーの歌詞は日常生活をコミカルに描いたストーリーラインを持っている。

ロックンロールのもう一つのルーツはブギー・ピアノである。ファッツ・ドミノとリトル・リチャーズの両方はピアニストである。初期には、彼らはストレート・ブギウギ・ピアノを演奏していた。そして、チャック・ベリーのギター・リフはブギー·ピアノの左手のエイト・ビート・パターンの代替品である。 エイト・ビートがない時から、唯一、彼はロックンロールの初期の時代に8ビートのリズムを演奏していた。

そして、白人のミュージシャンは、これらのロックンロール・スタイルを継承する。ビル・ヘイリーのモデルは、ルイ・ジョーダンの小さなコンボスタイルとR&Bやジャンプのサウンドだった。エルビス・プレスリーは、黒人のように歌うことでサン・レコードのサム・フィリップスに高く評価された。ビートルズやローリング・ストーンズはロックンロールやR&Bのカバーでキャリアを開始している。

ソウル

ソウルミュージックは、R&Bから進化した1960年代の様々なジャンルのポピュラーなブラック・ミュージックのことを言う。「ソウル」という言葉はアフリカ系アメリカ人の民族意識の高揚をという意味を含み、その背景にはアメリカ公民権運動がある。

ニュー・ソウル

ニュー・ソウルはR&Bからソウルの伝統的な枠組みを乗り越えた70年代前半のマーヴィン・ゲイとスティービー・ワンダー、カーティス・メイフィールド、ダニー・ハサウェイの個性的で独特な卓越した音楽につけられた名称である。

ニュー・ソウルは、モータウンとノーザン·ソウルの中から誕生した。モータウンは、強固なプロダクション・システムを持っていた。そのシステムでは、プロデューサーやソングライターが実際の権力を掌握し、歌手やグループがそれらの指示に従っていた。その状況の中で、マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーは、プロダクション・システムに反旗を翻し、自分自身によるトータル・プロデュースを行った。同様に、カーティス·メイフィールドは自身のレーベルカートンを設立した。彼らは、歌手やソングライターだっただけではなく、アーティスト自らが作品のトータル・コンテプトを創り、社会的なメッセージを示した。彼らの作品は、新時代のソウルミュージックをリードしていった。

ニューソウルはジェームス・ブラウンとスライ&ザ·ファミリー・ストーンのファンク·ミュージックの影響を受けて、効果的にラテンパーカッションを使用して、洗練されたリズムを構築していた。ニューソウルの他の特徴はジャズのようなテンション・ボイシングと、オーバーダブによるコーラス、エレクトリック・ピアノやシンセサイザー、ワウワウ·ギターの使用である。彼らの実験は、ステレオタイプな生産体制のソウルミュージックにおいてはあり得ないことだった。彼らの作品はラヴ・バラードやダンス・ミュージックではないが、しかし、シリアスなメッセージ・ソングを70年代と公民権運動とカウンター・カルチャーに呼応してチャートでヒットしラジオで頻繁にエア・プレイされた。

ファンク

ファンクはブラックミュージックのひとつのジャンルで、ジェームス・ブラウンによって1960年代中盤に作られた。ホーン、ブラスやストリングスはパーカッシブに扱われ、シンコペーションが強調され、ブラウンは独自のポリリズムサウンドをつくった。

ファンクの後継者には例えばP-Funkとプリンスがいる。

ヒップ・ホップ

ヒップ・ホップは1970年代中盤ニューヨーク市ブロンクスで育った黒人の若者に由来する音楽ジャンルでありストリート・カルチャーである。それは音楽だけではなく、DJスタイル、スクラッチ、ブレイク・ダンス、グラフィティー・アート、それにファッションを含んでいる。ヒップ・ホップの文化は世界中に拡がり80年代の音楽シーンで大きな影響を与えた。

ハウス

ハウスミュージックの起源はフィリー・ソウル(フィラデルフィア・ソウル)、サルソウル、シンセポップと実験的なジャーマン・ロックにある。それらはシカゴにおけるフランキー・ナックルズDJプレイによって融合し、彼の追従者たちは安価なドラムマシンとシンセサイザーによってハウス・ミュージックを創りだした。(シカゴ・ハウス)その一方で、ニューヨークのパラダイス・ガレージにおけるラリー・レヴァンのガラージュ(・ハウスあるいはディスコ)が一つの双璧としてある。

ハウスの特徴は、電子音、ダンサブルな四拍子、ソウルミュージックから引き継いだグルーヴである、そのテンポは115から130である。今日ではハウスミュージックは様々なサブジャンルによって分割されている。

テクノ

テクノはハウスミュージックの弟のジャンルであると深くシカゴハウス、テクノポップとエレクトロ·ヒップホップの影響を受けて生まれ。シカゴハウスの違いは深刻さ、叙情、サイバネティック感、ミニマリズムと高いBPM140〜125です。

テクノのオリジネーターはデトロイトの若い黒人青年、ホアン・アトキンス、デリック・メイとケヴィン・サウンダーソン(ベルヴィル・スリー)です。そして、初めは、テクノはデトロイトの地下シーンのローカルなブラックミュージックでありクラブミュージックでした。しかし、テクノは世界に広がる。テクノは、様々なスタイルやサブジャンルを広げたが、テクノは比較的サブジャンル間の障壁はありません。テクノのサブジャンルは、ミニマルテクノ、デトロイトテクノの普遍性で接続されています。

ニュー・ジャック・スウィング

ニュージャックスウィングはヒップホップ、R&B、ソウル、ポップの影響を受けた音楽ジャンルである。それの特徴は、シンコペーションを強調したブレイクビーツとR&Bのメロディアスなヴォーカルスタイルとポップスの組み合わせである。代表的なアーティストは、ニュー・エディションとそのグループからソロ・デビューしたボビー・ブラウンである。マイケル・ジャクソンの「リメンバー・ザ・タイム」と、ジャネット・ジャクソン、カイリー・ミノーグとTLCのいくつかの作品はこのスタイルを取り入れた。

参考文献

『オントモ・ムック 無敵のブラックミュージック』(音楽之友社、1998)
『ブラック・ミュージック入門』泉山真奈美、河地依子、高見展、ロッククラシック研究会(河出書房新社、2000)
『ブラックミュージック“名盤”入門!―Blues,R&B,doo‐wop,soul,soul gospel,funk 別冊宝島 (934)』桜井ユタカ、鈴木啓志(宝島社、2003)
『文化系のためのヒップホップ入門 いりぐちアルテス002』長谷川町蔵、大和田俊之(アルテスパブリッシング、2011)

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マイルス・デイヴィス年表

1926 – 5月26日、マイルス・デューイ・デイヴィス三世、イリノイ州アルトンの黒人としては裕福な家庭に生まれる。父は歯科医で、母は音楽愛好家だった。

1935 – 父の友人から初めてのトランペットを譲り受ける。

1939 – 父親が新品のトランペットをプレゼントする。

1943 – エルクス・クラブでプロとして演奏するようになる。

1944 – ビリー・エクスタイン楽団がマイルスのホームタウン、セントルイスを訪れる。そのメンバーにはチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーが含まれていた。

 ジュリアード音楽院で学ぶという名目でニューヨークに移住する。チャーリー・パーカーの面識を得る。

1945 – チャーリー・パーカー・クインテットにディジー・ガレスピーの代理として加入する。

 ハービー・フィールズ・セクステットのメンバーとして初レコーディング。『ファースト・マイルス』

1947 – 初のリーダー・レコーディング

1948 – J. J. ジョンソン、リー・コニッツ、ジェリー・マリガン、ギル・エヴァンスを含むマイルス・デイヴィス九重奏団、ロイヤル・ルーストに出演。クール・ジャズを創り出す。

1949 – 『クールの誕生』クール・ジャズをはじまりであり、ウェストコースト・ジャズに大きな影響を与えた。

 タッド・ダメロンと初のヨーロッパ・ツアー。

1950 – アート・ブレイキーと共演、これがハード・バップを生み出すことになる。

1951 – 『ディグ』アート・ブレイキー、ソニー・ロリンズ

1953 – ドラッグ依存症を克服するためセントルイスに戻る。

1954 – ニューヨークのジャズ・シーンにカムバック。

 『ウォーキン』ハード・バップの名盤・名演。

 『バグス・グルーヴ』セロニアス・モンク、ミルト・ジャクソンと共演したクールなソロな魅力の名盤。

1955 – ソニー・ロリンズ、レッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズと「幻のクインテット」を結成。

 ソニー・ロリンズに替わってジョン・コルトレーンを加えて「第一期黄金クインテット」を結成。

1956 – いわゆる「マラソン・セッション」において、ハード・バップの聖典とされる『クッキン』『リラキシン』『ワーキン』『スティーミン』をレコーディング。

 『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』によりコロンビア・レコードからメジャー・デビュー。

1957 – ジョン・コルトレーンとフィリー・ジョー・ジョーンズを彼らのドラッグ依存症に耐えられず解雇。また、クインテットによるジャズに限界を感じる。

 『マイルス・アヘッド』ギル・エヴァンスと共演。

1958 – ビル・エヴァンスがマイルスのセクステットに参加する。

 モード奏法を採り入れた『マイルストーンズ』をリリース。

 事実上のマイルスのリーダー作であるキャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』をブルーノート・レコードよりリリース。(「枯葉」の名演を収録。)

1959 – モードジャズの完成形でありジャズ史上の最高傑作である『カインド・オブ・ブルー』をリリース。

1959 – 『スケッチ・オブ・スペイン』ギル・エヴァンスと共演。ロドリゴ作曲のアランフェス協奏曲の名演を含む。

1964 – ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスと「第二期黄金クインテット」を結成。

1965 – 『E.S.P.』新主流派の先駆け。

1967 – 『マイルス・スマイルズ』この作品で提示したスタイルに対して評論家によって「新主流派」と流派の名前が付けられた。また第二期黄金クインテットのメンバーや関連するミュージシャンの作品が「新主流派」(ニュー・メインストリーム)と呼ばれるようになる。

1968 – ロックのリズムとサウンドを採り入れ、ハービー・ハンコックにエレクトリック・ピアノを弾かせ、ギターにジョージ・ベンソンを呼び『マイルス・イン・ザ・スカイ』をレコーディング。

1969 – 『イン・ア・サイレント・ウェイ』タイトル曲はジョー・ザヴィヌルによる作曲。

1970 – 『ビッチェズ・ブリュー』本格的に電子サウンドとロックの要素を採用。

1972 – 『オン・ザ・コーナー』ファンクのサウンドとリズム、民族楽器をフィーチャー。

1975 – 体調不良により活動停止。

1981 – ジャズ・シーンにカムバック。マーカス・ミラー、サックス奏者のビル・エヴァンス、マイク・スターンとコラボレーションしライヴ・アルバム『ウィー・ウォント・マイルス』をリリース。

1985 – 『ユア・アンダー・アレスト』ポップスのアレンジ技法を用いる。二曲のポップソング『タイム・アフター・タイム』シンディー・ローパー、『ヒューマン・ネイチャー』マイケル・ジャクソンを収録。

1986 – マーカス・ミラー、トニー・リピューマの全面プロデュースによる『TUTU』をリリース。マーカスはプロデューサー、マルチプレイヤーとして起用されマーカスとの「デュエット」のような作品となる。

1991 – 9月28日、逝去。

1992 – 『ドゥー・バップ』ヒップ・ホップ、ラップをフィーチャー。

◻︎参考文献

『名盤できくジャズの歴史 1910s〜1990s』スイング・ジャーナル(スイング・ジャーナル社、1993)
『マイルス・デイヴィス ジャズを超えて』中山康樹(講談社現代新書、2000)
『地球音楽ライブラリー マイルス・デイヴィス』中山康樹、後藤雅洋、斎藤実、佐藤良平、杉田宏樹(TOKYO FM出版、2003)
『新書で入門 ジャズの歴史』相倉久人(新潮新書、2007)

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ジャズのサブジャンルとスタイル

◼︎ニューオリンズ・ジャズ 1910年代〜1920年代

ニューオリンズ周辺で黒人やクレオールによって演奏されたジャズを総称して「ニューオリンズ・ジャズ」と呼ぶ。ブラスバンドに影響を受けたパワフルで即興的な黒人音楽からクレオールによる室内楽まで様々なスタイルがあった。これらのバンドでは、トランペット、トロンボーン、クラリネットのフロントラインにチューバ、ギター、バンジョー、ウッドベース、ピアノ、ドラムが加えられた。

◼︎ディキシーランド・ジャズ 1910年代〜1920年代

白人が黒人によるニューオリンズ・ジャズを模倣し始め、それはディキシーランド・ジャズと呼ばれるようになった。そして、ディキシーランド・ジャズは全米に拡がっていった。

アーティスト:オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド

◼︎シカゴ・ジャズ(シカゴ・スタイル、ホット・ジャズ) 1910年代〜1920年代

アーティスト:ルイ・アームストロング、ジョー・”キング”・オリバー、キッド・オリー、ビックス・バイダーベック

◼︎スウィング・ジャズ 1930年代〜40年代前半

スウィング・ジャズは多くの白人によるビッグバンドにより演奏されたひとつのジャズのスタイルであり、1930年代から40年代前半までとても人気があった。またスウィングジャズは安寧なダンスミュージックであり、ジャズの特色である即興やソロよりもビッブバンドによるアンサンブルや編曲が重視された。

アーティスト:デューク・エリントン、ベニー・グッドマン、アーティー・ショー、グレン・ミラー、カウント・ベイシー

◼︎ヴォーカル・ジャズ 1920年代〜

ジャズの楽曲で楽器のソロ演奏ではなくヴォーカルをフィーチャーしたのもの、またはそのスタイル。

アーティスト:ビリー・ホリディ、ナット・キング・コール、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、アル・ジャーロー、ハリー・コニック・ジュニア

◼︎ビバップ 1940年代初頭〜50年代初頭

簡潔に言うと、ビバップは「1940年代のジャズ」である。1940年代に入るとビッグバンドによるダンス音楽に飽きたミュージシャンたちが深夜のジャズクラブのアフターアワーズでのジャムセッションでテクニックを競うようになる。それがビバップという新しいジャズのスタイルを生み出した。(ビバップ以降のジャズは「モダン・ジャズ」と呼ばれている。)

ビバップでは楽曲をコード進行による即興のためのモチーフとして扱う。また、アドリブを強調することで、その音楽はダイナミックで複雑なものになった。1950年代初頭にチャーリー・パーカーがスランプに陥ると同時に、ビバップはその完璧さと絶頂により自壊した。

アーティスト:チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤング、チャーリー・クリスチャン

◼︎ウィズ・ストリングス、オーケストラ・ジャズ

クラシックの弦楽合奏団やオーケストラをバックにジャズ・ミュージシャンがソロを吹くスタイルのジャズ。フュージョンとイージー・リスニングのルーツの一つになった。

名盤:チャーリー・パーカー『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』、クリフォード・ブラウン『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』、マイルス・デイヴィス『スケッチ・オブ・スペイン』、ウェス・モンゴメリー『フュージョン!』

◼︎クール・ジャズ 1940年代後半〜50年代

クール・ジャズはビバップへの反動として生まれ、それは白人層が好むものとなった。そのサウンドは理知的で制御されたものだが、ダイナミズムと情熱には欠けていた。

1948年にビバップ絶頂の頃、マイルス・デイヴィスはそのアンチテーゼとして新たなコンセプトを提示した。彼はギル・エヴァンスによる精密なアレンジとフレンチホルンやチューバを加えた九重奏団を採用し、1949年にアルバム「クールの誕生」をレコーディングした。そのレコーディングにはリー・コニッツやジェリー・マリガンが参加したこともあって、白人によるウェストコースト・ジャズへつながることになる。(広義には、ジェリー・マリガン、チェット・ベイカー、デイヴ・ブルーベック、ポール・デズモンド、モダン・ジャズ・カルテットなどの主に白人でウェストコーストの「クールなジャズ」もクール・ジャズと呼ばれている。)

◼︎ハードバップ 1950年代中盤〜60年代

簡潔に言うと、ハードバップは「1950年代のジャズ」である。ビバップの退潮の後、ジャズ・ミュージシャンたちはR&Bやソウルの影響のもとに新しい音楽の可能性を追求した。51年にレコーディングされ、アート・ブレイキーが参加したマイルス・デイヴィスのアルバム『ディグ』が先駆けとなり、54年のマイルスの『ウォーキン』やブレイキーの『バードランドの夜』でスタイルが完成した。複雑で技巧的になり過ぎたビバップを整理し、コード進行を複雑にし過ぎない、テーマにない音を使わない、一定のアレンジといった制限を設ける一方で、R&Bのモダンでグルーヴィーなリズムを取り入れた。ハードバップはビバップの自由さとR&Bのポピュラリティーやモダンな編曲技法が並立した音楽であり、現在、一般的にジャズと想起される音楽はこのハードバップあるいは新主流派のジャズである。

アーティスト:マイルス・デイヴィス、ソニー・ロリンズ、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、モダン・ジャズ・カルテット、バド・パウエル、クリフォード・ブラウン、リー・モーガン

名作:マイルス・デイヴィス『ウォーキン』『バグス・グルーブ』、アート・ブレイキー『バードランドの夜』『チュニジアの夜』、ソニー・ロリンズ『サクソフォン・コロッサス』

◼︎ジャズ・ギター 1950年代〜

1910年代から40年代のジャズ・シーンでは、もっぱらギターは単なる伴奏楽器として扱われた。例外は、ジャンゴ・ラインハルトやチャーリー・クリスチャンなどの一部の優れたギタリストだけである。

1950年代にウェス・モンゴメリーやグラント・グリーン、ジョー・パス、ジム・ホールはソロ楽器としてのジャズ・ギターの可能性を提示した。そして、フュージョンの時代にはジョン・マクラフリンやジョン・スコフィールド、アル・ディ・メオラ、ジョージ・ベンソン、リー・リトナー、ラリー・カールトン、パット・メセニー、マイク・スターンらによる優れた偉大なるギタリスト達によるパフォーマンスによってエレキギターはジャズ・シーンの看板を担うようになった。

代表的作品:ウェス・モンゴメリー『インクレディブル・ジャズ・ギター』『ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー』、グラント・グリーン『フィーリン・ザ・スピリット』、ラリー・カールトン『夜の彷徨』、パット・メセニー『ブライト・サイズ・ライフ』

◼︎ウェストコースト・ジャズ 1950年代

ウェストコースト・ジャズは1950年代にアメリカ西海岸で流行したジャズの総称である。その特徴は西海岸のリラックスした雰囲気、スウィング・ジャズの繊細さと自由だが抑制のきいたプレイヤーのソロである。多くのミュージシャンは正当な音楽教育を受けた白人で、西海岸の風土も影響して、ウェストコースト・ジャズはクール・ジャズの後継者となった。

アーティスト:ジェリー・マリガン、チェット・ベイカー、シェリー・マン、アート・ペッパー、スタン・ゲッツ、リー・コニッツ、デイヴ・ブルーベック、ポール・デズモンド

代表的作品:アート・ペッパー『モダン・アート』『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』、チェット・ベイカー『チェット』、ジェリー・マリガン『オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット』

◼︎モード・ジャズ 1950年代終盤〜1960年代

1950年代の終りにモード奏法によるアドリブ理論はマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンスなど多くのミュージシャンにより開発され発展し、マイルスのアルバム『カインド・オブ・ブルー』において完成した。ハードバップでは、コード進行やテーマ・メロディーが重要視され、演奏者はテーマから外れたいくつかの音が使えないという制約があった。モード・ジャズではコード進行を排除しモード(音階)によるフレーズにより楽曲は進行した。モード・ジャズには演奏が退屈になるというリスクがあったが、演奏者の自由な意思による即興演奏を行うことができた。

アーティスト:マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、キャノンボール・アダレイ、ウッディー・ショー、ジョー・ヘンダーソン

代表的作品:マイルス・デイヴィス『マイルストーンズ』『カインド・オブ・ブルー』ビル・エヴァンス『ポートレイト・イン・ジャズ』『ワルツ・フォー・デビー』、ジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』

◼︎ファンキー・ジャズ 1950年代終盤〜60年代初頭

ファンキー・ジャズはハードバップのひとつの後継のスタイルである。それはブルース・フィーリングを重視しファンクの要素を採り入れた。ファンキー・ジャズではフレーズを作る時に、ブルースやソウル、R&Bのようにペンタトニック・スケールやブルー・ノートを用いた。

アーティスト:アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、キャノンボール・アダレイ、ボビー・ティモンズ、ハンク・モブレー、ルー・ドナルドソン、ホレス・シルバー

代表的作品:アート・ブレイキー『モーニン』、ハービー・ハンコック『テイキン・オフ』、キャノンボール・アダレイ『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』

◼︎ソウル・ジャズ 1960年代

ソウル・ジャズはファンキー・ジャズに近いが、それはブルースやゴスペルにより強い影響を受けている。ソウル・ジャズはゴスペルの音階やコード進行を採り入れ、オルガンやギター、ビブラフォンなどの楽器が重要視ている。

アーティスト:ジミー・スミス、リチャード・”グルーヴ”・ホルムス、ジミー・マクグリフ、レニー・スミス、ビッグ・ジョン・パットン、ジョニー・ハモンド・スミス

◼︎フリー・ジャズ 1960年代終盤〜70年代中盤

フリー・ジャズ・ムーヴメントはオーネット・コールマンの作品と演奏スタイルにより始まった。フリー・ジャズはリズム、ハーモニー、音階、キーから自由に楽器を演奏する方法である。また、「フリー」という言葉はモダン・ジャズやモード・ジャズからの自由も意味し、絵画における抽象表現主義や公民権運動、その他の自由を主張するムーヴメントと呼応するものだった。

アーティスト:オーネット・コールマン、ファラオ・サンダース、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、アルバート・アイラー、アーチー・シェップ、サン・ラ

代表的作品:オーネット・コールマン『ジャズ来るべきもの』、ジョン・コルトレーン『アセンション』『インターステラー・スペース』

◼︎新主流派(モダン・メインストリーム) 1965年前後〜1970年代

1960年代中盤、マイルス・デイヴィスはウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスとクインテットを結成し、マイルスのキャリアは第二の黄金期を向かえることになった。彼らのスタイルはハードバップとモード・ジャズのエッセンスを取り出し、フリー・ジャズの混沌や抽象性とも違うものだった。広義にはモードジャズと呼ばれるが、このジャズはモードの切り替えやアレンジ、いくつかの制限のあるモードジャズの発展である。評論家のアイラ・ギトラーにマイルスの『マイルス・スマイルズ』が「新主流派」(モダン・メインストリーム、ニュー・メインストリーム)と称され、このカルテットのメンバーや共演したり影響を受けたアーティストによってつくり出された音楽が「新主流派」と呼ばれるようになる。

アーティスト:マイルス・デイヴィス、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、フレディー・ハバード、ジャッキー・マクリーン、エルヴィン・ジョーンズ、グレイシャン・モンカー三世

代表的作品:ハービー・ハンコック『処女航海』『エンピリアン・アイルズ』、マイルス・デイヴィス『ESP』『マイルス・スマイルズ』、ウェイン・ショーター『スピーク・ノー・イーヴル』『ジュジュ』

◼︎ジャズ・ロック

ジャズ・ロックとはロックの要素を採り入れたジャズのスタイルである。

ジャズ・ロックには二つの意味がある。ひとつは60年代中頃、ファンキー・ジャズに近いもので、ジャズ・ミュージシャンがロックの要素を採り入れた。例えば、それはリー・モーガンやキャノンボール・アダレイである。もうひとつは、60年代終から70年代初頭にブラス・ロックやアート・ロックの影響で、マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、チック・コリアのように電子楽器(エレキギターやエレクトリック・ピアノ)やロックの演奏スタイルを採り入れたものである。後者はフュージョンにつながっていく。

代表的作品:リー・モーガン『ザ・サイドワインダー』

◼︎フュージョン 1960年代終盤〜80年代

「フュージョン」という言葉はジャズとロックやポップスなど他の音楽ジャンルとの融合を意味する。ジャズ・ロックやクロスオーヴァー(クラシックや現代音楽の要素を用いたジャズ)を経たフュージョンの特徴は洗練されたポップス感覚とその演奏、フェンダー・ローズなどの電子楽器やエフェクターを用いたエレキギターの使用とダビングやエフェクターによるアレンジメントである。また、ジャズ・ファンク、スムース・ジャズ、オーケストラ・ジャズ、アヴァンギャルド・ジャズからソウル・ミュージックに近いもの、イージー・リスニングに近いもの、往年のジャズ・ミュージシャンが電子楽器やジャズでは用いられない楽器を取り入れた作品、ジェフ・ベックやフランク・ザッパなどロックアーティストによる作品、スティーリー・ダンやTOTOなどフュージョンの影響を強く受けたポップスまで幅広い作品がフュージョンには存在する。

アーティスト:ウェザー・リポート、ハービー・ハンコック 、リターン・トゥ・フォーエバー(チック・コリア)、ジャコ・パストリアス、パット・メセニー、マーカス・ミラー、マイク・スターン、ジョージ・ベンソン、リー・リトナー、ラリー・カールトン、デヴィッド・サンボーン、ブレッカー・ブラザーズ

代表的作品:ウェス・モンゴメリー『ロード・ソング』、ウェザー・リポート『ヘヴィー・ウェザー』、ハービー・ハンコック『ヘッドハンターズ』、リターン・トゥ・フォーエバー『リターン・トゥ・フォーエバー』、ジョージ・ベンソン『ブリージン』、パット・メセニー『オフランプ』

◼︎新伝承派 1980年代初頭〜

1980年代に入るとジャズ・シーンの状況は一変した。フュージョンは人々に飽きられ、メインストリームのジャズが再び人々の関心を集めた。

新伝承派の始まりはウィントン・マルサリスのデビューである。彼はニューオリンズに生まれ、ニューヨークのジャズ・シーンに登場すると、すぐに彼の伝統的な演奏は人々を魅了した。彼のアプローチは過去の録音された演奏を忠実に再現することを目的にするもので、過去の楽譜や録音、先行者のスタイルをコピーし、さらに彼の解釈を加えるというものだった。(新伝承派の音楽はモダン・ジャズとはされていない。)1980年代中盤以降、新伝承派はジャズ・シーンをリードしていった。

アーティスト:ウィントン・マルサリス、ブランフォード・マルサリス、テレンス・ブランチャード、ドナルド・ハリソン、ジョシュア・レッドマン

代表的作品:ウィントン・マルサリス『ウィントン・マルサリスの肖像』『スタンダード・タイム』

◼︎パンク・ジャズ

アーティスト:ポップ・グループ、ノー・ウェーヴ・ジョン・ゾーン、ジェイムス・ブラッド・ウルマー

◼︎M-Bass

アーティスト:グレッグ・オスビー、スティーヴ・コールマン、カサンドラ・ウィルソン

◼︎アシッド・ジャズ

アーティスト:ジェイムス・テイラー・カルテット、インコグニート、ジャミロクワイ

◼︎21世紀のジャズ

ゴンサロ・ルバルカバ、リチャード・ボナ、上原ひろみ、ロバート・グラスパー、テレンス・マーティン

◻︎参考文献

『名盤できくジャズの歴史 1910s〜1990s』スイング・ジャーナル(スイング・ジャーナル社、1993)

『ジャズ完全入門! 』後藤雅洋(宝島新書、2006)

『面白いほどよくわかるジャズのすべて―ジャズの歴史から聴き方・楽しみ方まで (学校で教えない教科書)』澤田俊祐(日本文芸社、2007)

『新書で入門 ジャズの歴史』相倉久人(新潮新書、2007)

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