エピキュリアン快楽主義の哲学ブックリスト

■『エピクロス―教説と手紙』エピクロス(岩波文庫)

3つの手紙と主要教説、2つの断片集、エピクロスの生涯と哲学の解説が収められている。「ヘロドトス宛の手紙」は、自身の倫理学のベースとなるヘロドトスに強い影響を受けた原子論の自然哲学の体系が簡潔に述べられている。「ピュトクレス宛の手紙」は、自然哲学のうち特に気象学と天体と天界についての理論が述べられている。「メノイケウス宛の手紙」では、自身の倫理学のエッセンスと思慮によって善く生きることのすすめが述べられる。主要教説と断片は、文章量としては短いが、エピクロスの特に快楽主義の倫理学の考えが十分に理解できるものになっている。

(主要教説)五 思慮深く美しく正しく生きることなしには快く生きることもできず、快く生きることなしには思慮深く美しく正しく生きることもできない。快く生きるということのない人は、思慮ぶかく美しく正しく生きないのであり、思慮深く美しく正しく生きるということのない人は、快く生きることができないのである。(p.76)

■『快楽の哲学 より豊かに生きるために』木原武一(NHKブックス)

エピクロスの快楽主義が一般的に「エピキュリアン」という言葉でイメージされる享楽主義ではなく、「条件つきの快楽」であるということに基づいて、ルクレティウスやロック、ヒューム、ベンサムの快楽説、快楽と幸福と自由の基礎的構造、快楽と欲望の関係について考察する。そして、筆者は「学ぶこと知ることの喜びと発見」の快楽が最高の快楽であり、人の生きる目的であり出発点だと結論づける。

(エピクロスが)胃袋よりはるかに重視したのは、すこやかな心身である。彼にとって、快楽とは(中略)積極的なことがらではなく、体に苦痛がなく、心が穏やかであるといった、消極的なものである。(p.12)

身体の健康と心の平静ーこれが生きることの目的であり、これを得るためには、自分の欲望をよく吟味しなければならない、とエピクロスは言う。こうして熟慮と吟味をへて選ばれた欲望がわれわれをそこへ誘う快楽は、この身体の健康と心の平静にほかならない。身体の健康が肉体の快楽であり、心の平静が精神の快楽である。(p.38)

■『エピクロスとストア Century Books 人と思想』堀田彰(清水書院)

前半はエピクロスの生涯と規準学・自然学・倫理学に分けてエピクロスとルクレティウスの快楽主義を解説する。後半はキティオンのゼノンの生涯とゼノンやセネカ、エピクテトスのストア哲学を同様に知識論・自然学・倫理学に分けて解説する。日本では数少ないエピクロスの快楽主義の解説書。

■『快楽主義の哲学』澁澤龍彦(文春文庫)

エピクロスの快楽主義をベースにして、ストア派の禁欲主義やダンディズム、サディズムも取り込んで孤高の隠者・精神の貴族として自らの快楽を追い求める快楽主義を積極的・煽動的に肯定する。そして、現代日本の商業主義的・大衆的・レジャー的な快楽のあり方を批判する。

強い人間だったら、同じ誘惑を受けた場合でも、これを自分の進歩発展のために有益な糧として、自分の内部でうまく消化してしまう。酒も恋愛も、そしてまた読書も、彼らにとっては、人生を豊富ならしめる材料となる。(p.196)

■『哲学のすすめ』岩崎武雄(講談社現代新書)

真の幸福のあり方とは何か?4章でエピクロス(快楽主義)とジョン・スチュワート・ミル(功利主義)、ソクラテス(幸福主義的道徳観)の幸福説が解説される。

永続的な快楽を得るために絶対に必要なことは、われわれがもはや積極的に快楽を追求しないということです。なぜなら、もしわれわれが積極的に快楽を求めていったとするならば、その快楽を得ることができない場合も出てくるはずであり、われわれはそのとき不快を感じなければならないからです。(p.74 – 75)

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