◼︎ニューオリンズ・ジャズ 1910年代〜1920年代
ニューオリンズ周辺で黒人やクレオールによって演奏されたジャズを総称して「ニューオリンズ・ジャズ」と呼ぶ。ブラスバンドに影響を受けたパワフルで即興的な黒人音楽からクレオールによる室内楽まで様々なスタイルがあった。これらのバンドでは、トランペット、トロンボーン、クラリネットのフロントラインにチューバ、ギター、バンジョー、ウッドベース、ピアノ、ドラムが加えられた。
◼︎ディキシーランド・ジャズ 1910年代〜1920年代
白人が黒人によるニューオリンズ・ジャズを模倣し始め、それはディキシーランド・ジャズと呼ばれるようになった。そして、ディキシーランド・ジャズは全米に拡がっていった。
アーティスト:オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド
◼︎シカゴ・ジャズ(シカゴ・スタイル、ホット・ジャズ) 1910年代〜1920年代
アーティスト:ルイ・アームストロング、ジョー・”キング”・オリバー、キッド・オリー、ビックス・バイダーベック
◼︎スウィング・ジャズ 1930年代〜40年代前半
スウィング・ジャズは多くの白人によるビッグバンドにより演奏されたひとつのジャズのスタイルであり、1930年代から40年代前半までとても人気があった。またスウィングジャズは安寧なダンスミュージックであり、ジャズの特色である即興やソロよりもビッブバンドによるアンサンブルや編曲が重視された。
アーティスト:デューク・エリントン、ベニー・グッドマン、アーティー・ショー、グレン・ミラー、カウント・ベイシー
◼︎ヴォーカル・ジャズ 1920年代〜
ジャズの楽曲で楽器のソロ演奏ではなくヴォーカルをフィーチャーしたのもの、またはそのスタイル。
アーティスト:ビリー・ホリディ、ナット・キング・コール、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、アル・ジャーロー、ハリー・コニック・ジュニア
◼︎ビバップ 1940年代初頭〜50年代初頭
簡潔に言うと、ビバップは「1940年代のジャズ」である。1940年代に入るとビッグバンドによるダンス音楽に飽きたミュージシャンたちが深夜のジャズクラブのアフターアワーズでのジャムセッションでテクニックを競うようになる。それがビバップという新しいジャズのスタイルを生み出した。(ビバップ以降のジャズは「モダン・ジャズ」と呼ばれている。)
ビバップでは楽曲をコード進行による即興のためのモチーフとして扱う。また、アドリブを強調することで、その音楽はダイナミックで複雑なものになった。1950年代初頭にチャーリー・パーカーがスランプに陥ると同時に、ビバップはその完璧さと絶頂により自壊した。
アーティスト:チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤング、チャーリー・クリスチャン
◼︎ウィズ・ストリングス、オーケストラ・ジャズ
クラシックの弦楽合奏団やオーケストラをバックにジャズ・ミュージシャンがソロを吹くスタイルのジャズ。フュージョンとイージー・リスニングのルーツの一つになった。
名盤:チャーリー・パーカー『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』、クリフォード・ブラウン『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』、マイルス・デイヴィス『スケッチ・オブ・スペイン』、ウェス・モンゴメリー『フュージョン!』
◼︎クール・ジャズ 1940年代後半〜50年代
クール・ジャズはビバップへの反動として生まれ、それは白人層が好むものとなった。そのサウンドは理知的で制御されたものだが、ダイナミズムと情熱には欠けていた。
1948年にビバップ絶頂の頃、マイルス・デイヴィスはそのアンチテーゼとして新たなコンセプトを提示した。彼はギル・エヴァンスによる精密なアレンジとフレンチホルンやチューバを加えた九重奏団を採用し、1949年にアルバム「クールの誕生」をレコーディングした。そのレコーディングにはリー・コニッツやジェリー・マリガンが参加したこともあって、白人によるウェストコースト・ジャズへつながることになる。(広義には、ジェリー・マリガン、チェット・ベイカー、デイヴ・ブルーベック、ポール・デズモンド、モダン・ジャズ・カルテットなどの主に白人でウェストコーストの「クールなジャズ」もクール・ジャズと呼ばれている。)
◼︎ハードバップ 1950年代中盤〜60年代
簡潔に言うと、ハードバップは「1950年代のジャズ」である。ビバップの退潮の後、ジャズ・ミュージシャンたちはR&Bやソウルの影響のもとに新しい音楽の可能性を追求した。51年にレコーディングされ、アート・ブレイキーが参加したマイルス・デイヴィスのアルバム『ディグ』が先駆けとなり、54年のマイルスの『ウォーキン』やブレイキーの『バードランドの夜』でスタイルが完成した。複雑で技巧的になり過ぎたビバップを整理し、コード進行を複雑にし過ぎない、テーマにない音を使わない、一定のアレンジといった制限を設ける一方で、R&Bのモダンでグルーヴィーなリズムを取り入れた。ハードバップはビバップの自由さとR&Bのポピュラリティーやモダンな編曲技法が並立した音楽であり、現在、一般的にジャズと想起される音楽はこのハードバップあるいは新主流派のジャズである。
アーティスト:マイルス・デイヴィス、ソニー・ロリンズ、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、モダン・ジャズ・カルテット、バド・パウエル、クリフォード・ブラウン、リー・モーガン
名作:マイルス・デイヴィス『ウォーキン』『バグス・グルーブ』、アート・ブレイキー『バードランドの夜』『チュニジアの夜』、ソニー・ロリンズ『サクソフォン・コロッサス』
◼︎ジャズ・ギター 1950年代〜
1910年代から40年代のジャズ・シーンでは、もっぱらギターは単なる伴奏楽器として扱われた。例外は、ジャンゴ・ラインハルトやチャーリー・クリスチャンなどの一部の優れたギタリストだけである。
1950年代にウェス・モンゴメリーやグラント・グリーン、ジョー・パス、ジム・ホールはソロ楽器としてのジャズ・ギターの可能性を提示した。そして、フュージョンの時代にはジョン・マクラフリンやジョン・スコフィールド、アル・ディ・メオラ、ジョージ・ベンソン、リー・リトナー、ラリー・カールトン、パット・メセニー、マイク・スターンらによる優れた偉大なるギタリスト達によるパフォーマンスによってエレキギターはジャズ・シーンの看板を担うようになった。
代表的作品:ウェス・モンゴメリー『インクレディブル・ジャズ・ギター』『ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーとウィントン・ケリー』、グラント・グリーン『フィーリン・ザ・スピリット』、ラリー・カールトン『夜の彷徨』、パット・メセニー『ブライト・サイズ・ライフ』
◼︎ウェストコースト・ジャズ 1950年代
ウェストコースト・ジャズは1950年代にアメリカ西海岸で流行したジャズの総称である。その特徴は西海岸のリラックスした雰囲気、スウィング・ジャズの繊細さと自由だが抑制のきいたプレイヤーのソロである。多くのミュージシャンは正当な音楽教育を受けた白人で、西海岸の風土も影響して、ウェストコースト・ジャズはクール・ジャズの後継者となった。
アーティスト:ジェリー・マリガン、チェット・ベイカー、シェリー・マン、アート・ペッパー、スタン・ゲッツ、リー・コニッツ、デイヴ・ブルーベック、ポール・デズモンド
代表的作品:アート・ペッパー『モダン・アート』『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』、チェット・ベイカー『チェット』、ジェリー・マリガン『オリジナル・ジェリー・マリガン・カルテット』
◼︎モード・ジャズ 1950年代終盤〜1960年代
1950年代の終りにモード奏法によるアドリブ理論はマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンスなど多くのミュージシャンにより開発され発展し、マイルスのアルバム『カインド・オブ・ブルー』において完成した。ハードバップでは、コード進行やテーマ・メロディーが重要視され、演奏者はテーマから外れたいくつかの音が使えないという制約があった。モード・ジャズではコード進行を排除しモード(音階)によるフレーズにより楽曲は進行した。モード・ジャズには演奏が退屈になるというリスクがあったが、演奏者の自由な意思による即興演奏を行うことができた。
アーティスト:マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンス、キャノンボール・アダレイ、ウッディー・ショー、ジョー・ヘンダーソン
代表的作品:マイルス・デイヴィス『マイルストーンズ』『カインド・オブ・ブルー』ビル・エヴァンス『ポートレイト・イン・ジャズ』『ワルツ・フォー・デビー』、ジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』
◼︎ファンキー・ジャズ 1950年代終盤〜60年代初頭
ファンキー・ジャズはハードバップのひとつの後継のスタイルである。それはブルース・フィーリングを重視しファンクの要素を採り入れた。ファンキー・ジャズではフレーズを作る時に、ブルースやソウル、R&Bのようにペンタトニック・スケールやブルー・ノートを用いた。
アーティスト:アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、キャノンボール・アダレイ、ボビー・ティモンズ、ハンク・モブレー、ルー・ドナルドソン、ホレス・シルバー
代表的作品:アート・ブレイキー『モーニン』、ハービー・ハンコック『テイキン・オフ』、キャノンボール・アダレイ『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』
◼︎ソウル・ジャズ 1960年代
ソウル・ジャズはファンキー・ジャズに近いが、それはブルースやゴスペルにより強い影響を受けている。ソウル・ジャズはゴスペルの音階やコード進行を採り入れ、オルガンやギター、ビブラフォンなどの楽器が重要視ている。
アーティスト:ジミー・スミス、リチャード・”グルーヴ”・ホルムス、ジミー・マクグリフ、レニー・スミス、ビッグ・ジョン・パットン、ジョニー・ハモンド・スミス
◼︎フリー・ジャズ 1960年代終盤〜70年代中盤
フリー・ジャズ・ムーヴメントはオーネット・コールマンの作品と演奏スタイルにより始まった。フリー・ジャズはリズム、ハーモニー、音階、キーから自由に楽器を演奏する方法である。また、「フリー」という言葉はモダン・ジャズやモード・ジャズからの自由も意味し、絵画における抽象表現主義や公民権運動、その他の自由を主張するムーヴメントと呼応するものだった。
アーティスト:オーネット・コールマン、ファラオ・サンダース、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、アルバート・アイラー、アーチー・シェップ、サン・ラ
代表的作品:オーネット・コールマン『ジャズ来るべきもの』、ジョン・コルトレーン『アセンション』『インターステラー・スペース』
◼︎新主流派(モダン・メインストリーム) 1965年前後〜1970年代
1960年代中盤、マイルス・デイヴィスはウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスとクインテットを結成し、マイルスのキャリアは第二の黄金期を向かえることになった。彼らのスタイルはハードバップとモード・ジャズのエッセンスを取り出し、フリー・ジャズの混沌や抽象性とも違うものだった。広義にはモードジャズと呼ばれるが、このジャズはモードの切り替えやアレンジ、いくつかの制限のあるモードジャズの発展である。評論家のアイラ・ギトラーにマイルスの『マイルス・スマイルズ』が「新主流派」(モダン・メインストリーム、ニュー・メインストリーム)と称され、このカルテットのメンバーや共演したり影響を受けたアーティストによってつくり出された音楽が「新主流派」と呼ばれるようになる。
アーティスト:マイルス・デイヴィス、ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、フレディー・ハバード、ジャッキー・マクリーン、エルヴィン・ジョーンズ、グレイシャン・モンカー三世
代表的作品:ハービー・ハンコック『処女航海』『エンピリアン・アイルズ』、マイルス・デイヴィス『ESP』『マイルス・スマイルズ』、ウェイン・ショーター『スピーク・ノー・イーヴル』『ジュジュ』
◼︎ジャズ・ロック
ジャズ・ロックとはロックの要素を採り入れたジャズのスタイルである。
ジャズ・ロックには二つの意味がある。ひとつは60年代中頃、ファンキー・ジャズに近いもので、ジャズ・ミュージシャンがロックの要素を採り入れた。例えば、それはリー・モーガンやキャノンボール・アダレイである。もうひとつは、60年代終から70年代初頭にブラス・ロックやアート・ロックの影響で、マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、チック・コリアのように電子楽器(エレキギターやエレクトリック・ピアノ)やロックの演奏スタイルを採り入れたものである。後者はフュージョンにつながっていく。
代表的作品:リー・モーガン『ザ・サイドワインダー』
◼︎フュージョン 1960年代終盤〜80年代
「フュージョン」という言葉はジャズとロックやポップスなど他の音楽ジャンルとの融合を意味する。ジャズ・ロックやクロスオーヴァー(クラシックや現代音楽の要素を用いたジャズ)を経たフュージョンの特徴は洗練されたポップス感覚とその演奏、フェンダー・ローズなどの電子楽器やエフェクターを用いたエレキギターの使用とダビングやエフェクターによるアレンジメントである。また、ジャズ・ファンク、スムース・ジャズ、オーケストラ・ジャズ、アヴァンギャルド・ジャズからソウル・ミュージックに近いもの、イージー・リスニングに近いもの、往年のジャズ・ミュージシャンが電子楽器やジャズでは用いられない楽器を取り入れた作品、ジェフ・ベックやフランク・ザッパなどロックアーティストによる作品、スティーリー・ダンやTOTOなどフュージョンの影響を強く受けたポップスまで幅広い作品がフュージョンには存在する。
アーティスト:ウェザー・リポート、ハービー・ハンコック 、リターン・トゥ・フォーエバー(チック・コリア)、ジャコ・パストリアス、パット・メセニー、マーカス・ミラー、マイク・スターン、ジョージ・ベンソン、リー・リトナー、ラリー・カールトン、デヴィッド・サンボーン、ブレッカー・ブラザーズ
代表的作品:ウェス・モンゴメリー『ロード・ソング』、ウェザー・リポート『ヘヴィー・ウェザー』、ハービー・ハンコック『ヘッドハンターズ』、リターン・トゥ・フォーエバー『リターン・トゥ・フォーエバー』、ジョージ・ベンソン『ブリージン』、パット・メセニー『オフランプ』
◼︎新伝承派 1980年代初頭〜
1980年代に入るとジャズ・シーンの状況は一変した。フュージョンは人々に飽きられ、メインストリームのジャズが再び人々の関心を集めた。
新伝承派の始まりはウィントン・マルサリスのデビューである。彼はニューオリンズに生まれ、ニューヨークのジャズ・シーンに登場すると、すぐに彼の伝統的な演奏は人々を魅了した。彼のアプローチは過去の録音された演奏を忠実に再現することを目的にするもので、過去の楽譜や録音、先行者のスタイルをコピーし、さらに彼の解釈を加えるというものだった。(新伝承派の音楽はモダン・ジャズとはされていない。)1980年代中盤以降、新伝承派はジャズ・シーンをリードしていった。
アーティスト:ウィントン・マルサリス、ブランフォード・マルサリス、テレンス・ブランチャード、ドナルド・ハリソン、ジョシュア・レッドマン
代表的作品:ウィントン・マルサリス『ウィントン・マルサリスの肖像』『スタンダード・タイム』
◼︎パンク・ジャズ
アーティスト:ポップ・グループ、ノー・ウェーヴ・ジョン・ゾーン、ジェイムス・ブラッド・ウルマー
◼︎M-Bass
アーティスト:グレッグ・オスビー、スティーヴ・コールマン、カサンドラ・ウィルソン
◼︎アシッド・ジャズ
アーティスト:ジェイムス・テイラー・カルテット、インコグニート、ジャミロクワイ
◼︎21世紀のジャズ
ゴンサロ・ルバルカバ、リチャード・ボナ、上原ひろみ、ロバート・グラスパー、テレンス・マーティン
◻︎参考文献
『名盤できくジャズの歴史 1910s〜1990s』スイング・ジャーナル(スイング・ジャーナル社、1993)
『ジャズ完全入門! 』後藤雅洋(宝島新書、2006)
『面白いほどよくわかるジャズのすべて―ジャズの歴史から聴き方・楽しみ方まで (学校で教えない教科書)』澤田俊祐(日本文芸社、2007)
『新書で入門 ジャズの歴史』相倉久人(新潮新書、2007)