アップルコンピュータは、”Think different”(違った考え方をしよう、
発想を変えよう)の企業広告によって、全世界で統一したイメージとメッセージを発信している。これは、それまで各国の現地法人が自由に広告を展開していたのを見直してグローバルスタンダードなコミュニケーション展開に乗り出した最初のブランド・キャンペーンでもある。
このキャンペーンは、「世の中を変革し、よりよい世界にしようと情熱を抱くクリエイティブな人たち」をテーマに、フランシス・フォード・コッポラやピカソ、アインシュタイン、ボブ・ディランなど20世紀を代表する人物の顔写真を使って発想やものの見方を変えることを訴える。84年にマッキントッシュが登場したときに斬新な広告でブランドイメージをつくり上げたアメリカの広告会社TBWAシャイアット/デイと再びパートナーを組んで制作された。
アップルの存在根拠は、Macのユーザーと彼らのクリエイティブな仕事と生活だといえる。だが、もっと大きな存在根拠はより豊かな情報社会を実現すること、究極のコンピュータを創り出すことだと思う。
“Think different”には(1)「マッキントッシュはWintelとは違う哲学のあるコンピュータなんだ。」だから、その(2)「マックを買って、今日からクリエイティブな生活をして、世界を変えよう!!」というコノテーションがあると思う。(1)はマックユーザーに、マックを使っていることの優越感を与えアップルへの忠誠心を生み出す、(2)はWinユーザーとすでにマックを使っているユーザーにマックを買わせようとする。
アップルの”Think different”がナイキの”Just do it”と共通する点は、モチベーション・アドだということである。「マックで今日から人と違うことをしよう。」「ナイキのシューズを履いて、さあスポーツをしよう。」というように。また、アップルとナイキがそのようなキャッチフレーズを使えて、人々の印象に残すものにできるのは、常に斬新な機能とデザインの商品を生み出してきたからだ。(ナイキはエア・マックス、エア・ハラチ、エア・ジョーダン、アップルはPowerBook、iMac、Newton)また、両社ともライバル企業と競争していかないと、市場の中で生き残っていけず、消費者に他社とは違うブランドなんだ、と思わせる必要がある。
“Think different”は、アップルのブランドイメージを高めることや、既存のユーザーへのコーポレートブランド・コミュニケーションと、彼らがマックを使っていることにたいするコミュニティー意識をより強固なものにすることには成功していると思う。だが、Winユーザーや新規購入のユーザーのシェアを取り込める効果がある程、説得力のあるキャッチフレーズではなかったと思われる。