『NHK新感覚☆わかる使える英文法 文法がわかれば英語はわかる!』田中茂範(NHK出版)

『NHK新感覚☆わかる使える英文法 文法がわかれば英語はわかる!』田中茂範(日本放送出版協会、2008年2月)
主体がどう世界を表現するかという観点から英文法の時間・空間の感覚や意味の力学を解体して解説!!
直接的な「表現のためにすぐ使える解説」というよりも、文法事項が持っている時間と空間の感覚、言葉の意味の力関係を徹底的に解説します。
全体の構成は「コトの世界を語る:動詞の文法」「モノの世界を語る:名詞の文法」「状況を語る:副詞の文法」それらの組み合わせと総合について解説する「チャンキング:構文と配列」に分かれます。全体の半分が動詞で残りの3つのパートが1/3づつといったページ配分になっています。
それぞれのパートには複数のチャプターがあり、3つのセクションで構成されます。各パートの始めにはパートの内容を概観するOverviewと終わりにSumming-upとして各パートで学習した内容をまとめてあります。
「表現主体が世界を以下に表現するか」という視点から英文法を視る筆者が「表現英文法」と呼ぶ英文法で書かれた文法解説書です。文法には意味的な動機づけがあると考え文法を説明していきます。それによって、文法を意識的に「使い分ける」ことと「使いこなす」ことを目指します。
英文法の持つ感覚を主体の側から解きほぐして、ニュアンスやシチュエーションの違いによる意味の違いを理解することで、「be going toがなぜ未来をあらわすのか?」「他動詞とそれに続く前置詞の有無/自動詞」「to do不定師と動名詞のニュアンスの違い」といった構造の解説だけでは意味がよくわからない文法事項がなぜそういった形になるのか、意味になるのか、理解できます。「can/be able to」「be going to/will」「would/used to」の意味の違いを使用者の立場から解説して、学校英語では単純に交換可能だとされるそれらの使い分けを明晰に説明します。
「対称の捉え方の5つの名詞の型の違い」「形容詞の並べ方(冠詞の有無や単数形・複数形)」の説明は見事です。
最終チャプターの「語句の配列とチャンキング」では、英語のサブジェクティブな性質と強い線状性の構造といった英語の本ついて解説されていて興味深いです。
1100円という値段やソフトカバーの装丁のイメージとは違ってかなり高度な内容の本です。筆者の専門である認知言語学の知見に基づいて書かれた本で、少し哲学や記号論の本を読んでるような気分になります。この本を読んでると抽象的な思考力や哲学的な感覚が高まる気がします。
半年の語学番組のために筆者が作成したテキストを凝縮して再構成したのが本書です。値段の割に情報量が多く、コストパフォーマンスは非常に高いです。一気に読むのでは、毎日、1チャプターづつ深くしながら読むこととオススメします。
筆者も書いていることですが、この本の知識を本当に身につけるにはただこの本の内容を覚えるだけではだめで、この本に書いてある内容を実際の表現の中で実践する必要があります。しかし、この本がないとノンネイティヴが不定師と動名詞、can/be able toの使い分けや形容詞の並べ方傾向を理科して意識して使用できないと思います。
学校英語ではないコミュニケーションや表現のための英語を目指している方には必読の一冊です。すごくいい本です。