□目的
クラブ・ミュージック・シーンは、ポップスやロックとは異なった独特な音楽シーンやカルチャーを形成している。その中で流通し、用いられる“音楽”は従来の「音楽」の概念では捉えられない特徴をもっている。テクノ・シーンにおける楽曲や音盤の価値のあり方とその形成を、多面的に記述し解明していく。
□構成
1.それは「音楽」なのか?
2.クラブという空間
3.テクノ・シーンの形成
4.インタラクティヴ空間としてのクラブ
5.“ダンス”する身体
6.ユース・カルチャーとしてのテクノ・カルチャー
7.ローカルとグローバルを接続する情報メディア
8.レコ堀とアーカイヴの構築
9.サウンドの音楽
10.DJingというパフォーマンス
11.テクノにおける「作品」と「作者」
12.現代のシリアス・ミュージック
□概要
ナイト・クラブでは、特異な“音楽”がプレイされ、DJがレコードを“パフォーマンス”し、クラバーはそれを受け入れ“ダンス”によってそれを能動的に聴取している。(1-2)それは、ディスコから発展した形態の施設であり、シカゴ・ハウスの登場によりクラブ・シーンが形成される。現在のテクノ・シーンのルーツはデトロイト・テクノであり、そこには“硬派な”イデオロギーが存在する。(3)
クラブは、インタラクティヴに音楽がパフォーマンスされる特殊空間である。テクノ・トラックは、ポスト・モダンな断片でしかないが、DJによるパロールの実践によって、「大きな物語」と「デジタル・アウラ」が現出する。(4)そこにおいて、クラバーたちは、“ダンス”によってイリンクスや至高性を体験し、身体性を回復させる。(5)「若者文化」の終焉の状況の中で、テクノ・カルチャーは、「聖」と「遊」が連関する最後の若者文化である。(6)フライヤーやインターネットによるメディアのパーティーの情報発信によって、そういったシーンは形成され維持されている。(7)
一方で、マス・メディアで情報が流通しないため、DJにとっては、レコード店で「レコ堀」をすることが重要な楽曲の情報源となる。流動的な市場の中から「ライブラリー」や「アーカイヴ」を形成することがDJの表現の基礎となる。(8)
DJが用いるトラックは、DJプレイに特化しブリコラージュ的な方法で制作される「サウンドの音楽」である。(9)それらをロング・ミックスによってプレイし、DJingを身体技法として習得することによって、DJプレイはパフォーマンスとして完成する。(10)そのパフォーマンスのためのウ゛ィニル・レコードの生産と流通によってテクノ・シーンは、独自のシーンを形成している。(11)
テクノは、独自の批評空間や音楽シーンをを有している、それは、「ポピュラー音楽」ではない。それは、現代の「シリアス・ミュージック」として存在している。(12)